【保育が選別される時代】ニーズをつかんだ保育の創造を

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保育をめぐる「混沌」がこの1年間、取材ノートを真っ赤にしている。修正、修正の連続だからだ。ゆりかごから墓場までといわれる福祉。そのスタートで、どんなゆりかごに揺られるのかは、三つ子の魂百まで、ということわざを出すまでもなく、致命的に重要だ。

厚生労働省は2021年5月26日、保育所の利用者数が2025年度にピークになり、 その後、しばらく横ばい状態になると公表した。

もう少し詳しく見ると、2013年度は約 220万人だったが、2025年度に300万人程度になる。女性の就業率の上昇が、 その背景にあるとした。
一方で、定員割れの保育所を統廃合 したケースが全国で103にのぼったことも明らかにした。
原因は、国難ともいえる少子化だ。総務省が6月25日に発表した「令和2年国勢調査」でも、今年にも出生数が80万 人を割り込むと予想された。これまでの見立てでは、80万人を割り込む時期は 2030年とされていたのだから、9年も前 倒しになる。0-5歳児は2020年度に573 万人だったが、2025年度には530万人に まで減ると試算している。

少子化で、定員割れに拍車がかかるのか。それとも働く女性が増えて、保育の受け皿の足らない状態が続くのか。「混沌」に追い打ちをかけるのが、2019年 暮れに始まった新型コロナウイルスの感染拡大、いわゆるコロナ禍だ。

婚姻件数が減り、出生率も低下してい るとの報告が相次いでいる。
「感染が怖いので、保育所に預けたくない、という保護者もいる。定員割れは都市部であっても、すでにあちこちで起きている。国の予測よりも、はるかに速いスピードで広がっている。 本当に心配だ」
大阪・堺市のある保育 所の施設長は、こう話した。

取材ノートには、昨年の動きも書いてある。国は昨年5月29日に、少子化社会対策大綱をまとめ、「希望出生率1・8」の実現を目 指すことを強調した。
厚労省も昨年12月、「新 子育て安心プラン」を公表。女性の就業率のさらなる上昇を見込んで、2021年度 ~ 2024年度の4年 間 で、約14万人の保育の受け皿を整備することなどを 掲げた。
そして今年の6月18日に は政府が骨太の方針(経済財政運営と改革の基本 方針2021)を示して、成長 の原動力のひとつに「少子化対策」を掲げたうえ、「子ども庁」を念頭に置いた行政組織の 創設を検討するとした。
さらに6月28日には厚労省の「地域に おける保育所・保育士の在り方に関する 検討会」の第二回会合がオンラインで開かれ、保育所の多機能化や人口減少地 域での保育所の存続にかかわる政策に ついて、論点整理が行われた。

矢継ぎ早に、国の対策が出る。その 一方で、その対策を左右する社会の動きは刻々と変わり、データも連動して変わる。混沌の中で、保育事業から撤退する 一般企業も出ている。保育は、受難の危機にあるといっていい。

そんな中で社会福祉法人はどう向き 合っていくのか。運営が苦しいからといっ て、保育から撤退することは、社会福祉法人の使命に照らして許されない。地域の実情にマッチした、ニーズをつかんだ保育を創造する覚悟こそ、求められてい る。
こども園の推進、法人同士の連携、療育、家庭支援…。 工夫の余地は、まだまだある。もちろん、 保育士の人材確保や財源獲得など、国 への働き掛けも重要になる。

どんな地域にも、どんな時代になっても、保育を待つ幼子はいる。
存在自体が「未来」である子どもたち。大局観とスピード感を持った対応が、求められている。
保育が選別される時代が来た。