季刊誌『檸檬新報』の人気連載がブックレットになりました。
著者は、元高萩市長の草間吉夫さん。「ひとりぼっちにさせない、ならない」をキーワードに、これからの福祉のあるべき姿を紐解きます。
著書概要
人間基点の福祉は展開できているか――。
私生児として生まれ、福祉現場で働き、松下政経塾で学んだ。
首長を務め、大学教壇へ。先達からの教えも描いた著者渾身の新福祉論。
日本における近代的福祉制度が本格的に稼働したのは、厳密に言うならば戦後からである。
福祉三法が整備されたことで、差別を受けない普遍的制度を完備した福祉が全国民に対して供給されるようになり、1973の「福祉元年」と呼ばれる流れのなかで、老人医療費支給制度の創設はじめ、多くの福祉制度拡充のための改定が行われた。やがて1990年代後半になると、社会福祉の基礎構造に関する改革(基礎構造改革)がなされ、これは日本の福祉経営に大きな転換点をもたらした。
とはいえ、現代においてもまだまだ課題は多い。
ことし4月には「こども家庭庁」の発足が予定されているが、これは裏を返せば、少子化に全く歯止めが掛からない国家的危機や児童虐待、ヤングケアラー、あるいは子どもの貧困といった諸問題に対して、従前の縦割り行政では立ち行かないことが露呈した結果でもある。
子ども分野に留まらず、高齢者や障害者の分野においてもワンストップで包括して取り扱う行政機構の必要性は急速に高まっている。ワンストップ=統合化+包括を備えた福祉制度の〝かたち〟への時代ニーズは、今後ますます強く求められるだろう。
著者は、福祉を〝個々が自己実現すること〟、そして社会福祉を〝個々の自己実現を社会的にサポートすること〟と定義する。であるならば、一人ひとりが自己実現し、千差万別の個性輝く社会の実現に向け、最前線でそれを担うのが福祉に携わる人々である。
本書では、これから到来する福祉の流れを踏まえ、歴史に学びながら、福祉制度の新たな〝かたち〟を提示する。
『よりよいウェルビーイング論
ひとりぼっちにさせない、ならない』
草間吉夫著
檸檬新報舎刊、2023年2月15日
700円+税
A5版、ソフトカバー、82ページ
ISBN:978-4-9911362-1-4
目次
はじめに
第1章 新しい福祉のかたち
ウェルフェアからウェルビーイングへ
経済学的、経営学的発想の導入を
競争原理働かせてより良いサービスを
児童虐待情報の集まるマーケットを
生活保護は就労までのつなぎ融資
子どもの貧困対策は教育投資を柱に
児童養護施設による「自立支援」を考える
虐待対応へ国家資格「児童福祉士」制度確立を
学校施設活用の学童保育に縦割り行政の壁
障害者雇用をもっと増やそう
用語
第2章 私が影響を受けた社会福祉家
遠藤光静、松下幸之助、石井十次
N・E・バンクーミケルセン、渋沢栄一
留岡幸助、小倉昌男、稲盛和夫
アーウィン・エルマン、遠藤光洋
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著者略歴
草間吉夫(くさま・よしお)
元高萩市長。
新島学園短大准教授、宮城誠真短大特任教授。
1966年茨城県つくば市生まれ。生後3日から乳児院に預けられ、満2歳のとき児童養護施設に移り高校卒業まで生活する。東北福祉大学大学院後期博士課程単位取得満期退学。児童養護施設に5年間勤務した後、松下政経塾に入塾し児童福祉をテーマに研究。児童福祉の先進国カナダには4度訪問し、民間機関でインターンを経験。これまで48カ国を訪問し福祉制度などを視察。東北福祉大学教員を経て2006年3月から14年3月まで高萩市長2期歴任。公約実現のため3期目は出馬せず勇退。厚労省社会保障審議会児童部会専門委員、内閣府子供の未来応援国民運動発起人・アドバイザリー・子供の未来応援基金審査委員長、石岡市ふるさと再生会議会長、塩竃市地方創生審議会副会長。NPO法人タイガーマスク基金顧問、社会福祉法人同仁会および愛正会の理事、学校法人明秀学園日立高校後援会顧問、第一学院高等学校後援会長など。
主な著書に、『英国のリービングケア制度と実践』(福村出版)、『実習ガイドブックその理論と実際』(建帛社)、『施設・里親を育った子どもの自立 社会的養護の今』(福村出版)、『高萩市長草間吉夫の1500日』(茨城新聞社)、『高萩発実践 行財政改革 2公社清算の軌跡』(ぎょうせい)、『常陸国風土記[高萩編]』(茨城新聞社)、『ひとりぼっちの私が市長になった!』(講談社)など。
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出版社よりメッセージ
みなさんのふるさとは、どこですか。その少年(著者)のふるさとは、茨城県高萩市という人口3万人を切った、小さなまちです。
JRの高萩駅を降りて少し歩くと、太平洋の潮騒が聞こえます。四季の移ろいといっしょに表情を変えてくれる阿武隈の山々も、とても近い存在です。
そんなまちで、少年はすくすくと育ちました。でも、時々、心が曇ります。
「施設の子」
(そうか、ぼくはちょっと違うんだ……)
友だちが何げなく使う表現に、複雑な思いを抱きます。
少年は生後3日で乳児院に預けられ、児童養護施設で育ちました。お父さんやお母さんがいない、あるいはいたとしてもいろんな事情があって、いっしょに暮らせない。施設は、そんなこどもたちが暮らす「こころのふるさと」です。
このブックレットでは、少年が大きくなって、福祉と向き合っている想いを綴っています。生きる力を強くしてくれた福祉人や実業家を紹介しています。
少年は、当時としては珍しい、施設からの大学進学を果たしました。卒業後、施設の職員として働き、松下政経塾で学び、ふるさとの市長にもなって公約通り2期8年でやめて、今は大学教員です。
国や自治体にも意見を述べて、新聞にもコラムを書いて、福祉で最も欠けている「現場からの発信」も担っています。
「少年」は、草間吉夫。
みなさんの「こころのふるさと」の仲間に加えていただければ、幸いです。