シングルマザーの住環境アンケート コロナ禍で生活不安が深刻化

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シングルマザー世帯がコロナ禍で収入減に直面し、家賃の支払いにも苦慮している実態が追手門学院大学(大阪府茨木市)のアンケート調査で浮かび上がった。コロナ禍が、母子家庭の住環境に及ぼした影響が判明するのは初めて。1部屋で4人の子どもを育てるケースもあり、調査を行った地域創造学部の葛西リサ准教授は「制度面でひとり親世帯の補償を強化する必要がある」と指摘している。 (文 今西富幸)

調査は、緊急事態宣言発令中の4月下旬に実施した。コロナ禍での住環境や生活不安を尋ねるウェブアンケートをSNS上に開設し、ひとり親世帯に協力を呼びかけて、選択肢方式で回答を求め、自由記述欄も設けた。

世帯状況

アンケートには5月15日までに全国から473人の回答が寄せられた。うち母子世帯は443人で、離婚前の別居世帯(プレシングル)を含めると97.5%、父子世帯は2.5%(12人)だった。

<自由記述欄では、離婚の協議が進まず、別居状態のままコロナ禍に巻き込まれ、児童扶養手当や自治体独自のひとり親支援を獲得できないやりきれなさが、語られていた。コロナ禍の影響で調停が延期になったことで、さらに手当受給が遠のくのではという不安の声もあがっていた>
同居する子どもが1人の世帯は249人(52.6%)と半数を超え、2人は156人(33%)。就学状況は小学校が最も多く、未就学児や中高、大学生のいる世帯も目立った。

就業状況

親の就業状況はパート・アルバイトが169人(40%)と最多で無職、派遣社員、契約社員を含めると全体の6割以上が補償のない不安定な状況にあった。
<自由記述欄では、子どもの預け先がなく、辞職に追い込まれたという記述が多かった。また、在宅ワークを認められても、子どもがいては仕事にならないと苦悩する声も確認された。保育の手がないために自宅待機を選ばざるを得なくなったケースからは、休んでも補償のないことへの不安が複数記載されていた>

収入の変化

コロナ禍による収入の変化を尋ねたところ、239人(49.9%)が「減った」と回答。最近の収入状況では、無収入が20人(4.2%)いた。月額15万〜20万円未満が122人(25.8%)と最も多く、次いで10万〜15万円未満が90人(19%)。総じて20万円未満が68.4%を占めた。
なお、収入が変わらないという回答が45%となったが、この数字は注意が必要として、次のように分析している。
<自由記述欄には、「子どものアルバイト代が減った」という回答が複数あった。「娘がアルバイトに行けなくなり、年200万円ほどの学費の支払いに困っている」などの声だ。平時には子どもがアルバイトをして家計を助けていたが、アルバイト先の閉鎖、シフト減により働けなくなった。つまり、月収は減っていないが、世帯収入は減少した。さらに注意を要するのは、収入は変わらなくとも支出が増大している点。子どもの昼食代がかさむ、閉じこもり生活の中で水道光熱費が以前の3倍に増えた、オンライン授業となり新しくネット環境を整えるのにお金がかかった、マスクやアルコール、手洗い等の衛生商品の高騰で家計が圧迫されている―などの記述が、極めて多かった>

住まい

住宅の所有形態は民間の賃貸が264人(55.8%)と最も多く、次いで公営住宅80人(16.9%)。家賃の負担感については「やや苦しくなった」(123人)、「非常に苦しくなった」(109人)を含め、6割以上の世帯が負担増を感じていることがわかった。
家賃の支払いでは52.5%が給与で支払えるとしているが、残る半数は、預金の切り崩し(24.7%)や借金(5.8%)などで急場をしのいでいる。また、滞納者が29人(7%)おり、近い将来、給与から支払うことが困難になる、という記載も多く見られた。
住宅の部屋数を尋ねると、子どもを抱えながら1部屋で生活するケースが43世帯(9.1%)もあり、4人の子どもを1部屋で育てる事例も見られた。

生活上の不安

生活上の不安は「感染」(63.6%)が最も多く、「家賃の支払いが苦しい」(39.7%)、「家が狭く隔離困難」(39.1%)、「行き場がない」(27.7%)の順だった。
<自由記述欄では、「頼る先がなく、自分がかかってしまった時に子どもがどうなるのか」「子どもが感染したら一緒に病院に行けるのか」などの不安が綴られていた>

葛西リサ准教授の話 
「今回の調査では、ネットリサーチの数値とともに、多くの自由回答を分析することで、当事者の実情に接近することを試みた。シングルマザーの世帯は平時から貧困状況にあり、コロナ禍でより深刻化した。家族が感染しても隔離できない住環境も見えてきた。国や自治体には、ひとり親世帯向けの住まいも含めた手厚い補償が求められる」