ひとりひとりに寄り添う介護__特別養護老人ホーム「ことほぎ」

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写真キャプション:中浦治子さん(中央)と技能実習生のトゥエンさん(左)、イェンさん(右)

インタビュー:地域密着型特別養護老人ホーム ことほぎ副施設長・生活相談員 中浦 治子さん

特別養護老人ホーム ことほぎ(大阪府八尾市)は、市内初の地域密着型特養としてオープンし、今年で14年目。「入所者ファースト」の「心に寄り添う」介護で厚い信頼を得てきた。近年、施設に明るいムードが加わったという。どんな変化があったのか、取材した。(文・写真 和田依子)

アットホームな住環境

大阪メトロ谷町線の東の終着駅、八尾南駅から徒歩15分。「ことほぎ」は大和川を間近に臨む静かな場所に建つ。施設を訪ねたのは12月上旬。玄関を入ると、色鮮やかなクリスマス飾りが目に飛び込んでくる。「いらっしゃいませ」と副施設長の中浦治子さんが笑顔で迎えてくださった。

「ことほぎ」は2009(平成21年)8月に開設。定員29人のユニット型特養だ。2~4階が居室フロアで、「家のひと部屋がここに来た」というような、アットホームな環境を目指している。「生活の場で入所者さんが入れないスペースがあるのはおかしい」という考えから、居室フロアに職員専用のスペースはない。毎日の記録は、入所者の見守りをしながらそれぞれの持ち場でつけることを徹底している。

「入所者さんに寄り添った介護を第一にしています。どんなに忙しくても5分でも10分でもご本人にきちんと向き合ってお話をするという介護が、ここではできています」と中浦さんが胸を張って答えてくれた。

40歳から介護の世界へ

もともと医療業界で働いていたという中浦さん。医局での医療事務から始まり、個人病院の事務長を務めた経験もある。昔から「命にかかわる仕事に携わりたい」という思いが強く、40歳のときに介護の世界に飛び込んだ。幸寿会に入職してはや8年。生活相談員として、入所者やその家族と介護職員との橋渡し役を務めている。

さらに、施設の受付や事務手続き、病院受診の付き添い、職員のシフト調整など、さまざまな仕事を担う。

最近は、幸寿会が八尾市内の他法人と協力して取り組む社会貢献活動、「生活困窮者レスキュー事業」で、地域で困りごとを抱える方への相談員も務めるなど、大忙しの日々を送っているという。

相談と癒しのカウンター

副施設長としての中浦さんは、職員の話をよく聞くことを心がけているという。

「現場では、自分の思いを言えないときもあると思うんです。 日頃、職員を見ているなかで、『心に何か溜め込んでいるな』と感じたら、そこに『お茶を飲みにおいで』と誘うんです」。指さす先に見えるのは、1階オープンスペースの一角にあるカウンターキッチンだ。

自身もかつては、女性が多い医療の職場で人間関係に悩んだ。出産、子育ても経験した。「だから、いろいろな悩みにいっしょに向き合えるかな」と話す。

職員らは中浦さんが淹れたお茶を飲み、カウンター越しにひとしきり話し、あとは気持ちを切り替え、また職場に戻っていくそうだ。

「介護で大事なのは 資格や技術というより、目配り、気配り、気づきにあると思っています。心身ともにいい状態で仕事をしないと、入所者さんに十分目を向けられません。ストレスの少ない環境になるよう私ができることをやっている」と中浦さんは思いを話した。

また、こんなこともあったという。施設前の歩道をシルバーカーを押しながらよろよろ歩く高齢女性。窓越しにそれを見た中浦さんは、『様子がおかしい』とすぐに外に飛び出し、「中で休憩されませんか」と声をかけた。女性はカウンターの前でお茶を飲んでひと休みし、元気を取り戻して帰って行った。

ここは誰もがふらっと立ち寄れる「喫茶ことほぎ」。中浦さんはひそかにそう呼んでいる。

技能実習生の笑顔で職場が明るく

幸寿会は4年前からベトナムから技能実習生の受け入れを始めた。隣の特別養護老人ホーム「幸寿」も含めて、実習生は現在6人。「ことほぎ」では、今年4年目で特定技能実習生(*)となるトゥエン(PHAM THANH TUYEN)さんと、来日してまだ半年というイェン(TRAN THI KIM YEN)さんが働いている。

「最初は日本語が難しかったけど、今は言うことが何でもわかるので、どんな仕事もできる」と話す明るいトゥエンさん。「介護福祉士の資格をとれるように勉強する」と話す真面目なイェンさん。二人の頑張りが、施設にいい刺激を与えているという。

「施設がパーンと明るくなった」と竹田和哉施設長が言う。

幸寿会が寮の隣に用意した菜園にて。実習生らが育てている青パパイヤの木。

「『ありがとうございます』『こんにちは』と笑顔で挨拶してくれて、本当に癒されます。隅々まできれいにお掃除してくれるなど、私たちが見習わないといけないことがいっぱいあります」と中浦さんも高く評価する。「忘れていた初心を思い出した」と意外な気づきを得たベテラン介護職員もいるのだという。

いろいろな立場、いろいろな考えの職員らを陰で支える中浦さん。「今後の抱負は?」と尋ねると、「チームで質の高いケアをめざします。今後もその橋渡し役となって、さらに『中浦さんがいるからここに来た』と入所者さんやご家族さんに言われる存在になりたい」と語った。

*特定技能実習生…技能実習を3年間修了(技能実習1号2号)した場合、試験等が免除されて特定技能1号の資格が得られ、さらに最大5年まで日本に在留できる。