【特別養護老人ホーム】三養福祉会の83歳超ベテラン施設長が話す、コロナ禍だからこそ「人を大事に」

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社会福祉法人三養福祉会が運営する特別養護老人ホーム「サンフォート武庫之荘」(兵庫県尼崎市)は、ショートステイ・デイサービス・ヘルパーステーションを併設し、居宅介護支援事業所と診療所も備えた総合施設として地域で信頼されてきた。新型コロナウイルスへの対応を行いながら、どのような施設づくりを進めているのか取材した。
(文/写真 赤坂志乃)

コロナ対策を徹底し、普段通り安心して過ごしてもらう

6月中旬。閑静な住宅地、武庫之荘にある施設を訪ねると、利用者さんたちがなごやかにレクリエーションタイムを過ごしていた。以前と違うのは、マスク着用で隣同士の席が開いていることぐらい。
施設長の伊地知正治さんは、「100年に一度といわれる新型コロナですが、利用者さんにはできるだけ普段通りに安心して過ごしていただきたい。これまでノロウイルスなどの感染症対策を懸命にやってきましたので、新型コロナもその延長線上で手洗い、消毒、マスクの着用を徹底し、ソーシャルディスタンスと換気に気を配っています」
と話す。
家族との面会は感染防止のために2月末から制限せざるをえなかったが、政府の非常事態宣言が解除されたのを受けて6月から制限を緩和した。
「予約の連絡をいただき、お部屋でなく交流スペースで会っていただく。場合によっては応接室や会議室も開放し、15分程度と時間を決めて混乱なく面会していただいています。毎日のように面会に来られるご家族もいますので、短い時間でもお顔を見て安心していただきたい」

職員同士のフラットなコミュニケーションを重視

伊地知さんは、40年間三洋電機に勤め役員待遇で退職した後、ひょんなご縁で福祉の世界に入った。
68歳のときに当時最年長で社会福祉士に合格。いくつかの福祉施設で施設長を歴任し、8年前に三養福祉会へ。現在83歳の超ベテラン施設長として活躍している。

「長く勤めようと思ってきたわけでなく、その都度請われて、役に立つならとお引き受けしてきました。子供の頃に戦争の理不尽さや親の苦労を見てきたので正義感が強く、社会を良くしたいという思いで弁護士を目指したことも。三養福祉会でも福祉とは何かを含めて施設づくりに関わりたいと思いました」

伊地知さんが施設長として最も大事にしていることは、職員とのフラットなコミュニケーションである。
「運営会議だけでなくリーダー会議にも出て、いろんな人の意見を聞きます。研修もコミュニケーションの場と考えて参加します。二度とない人生でどんな夢を持って生きているのか、対話をすれば職員がどんなことを考えているかがわかってきます」。 運営会議では必ず、事業計画に基づいた前月の実績を報告書にして渡すのが伊地知さん流だ。そこには必ず大切にしたい心のことばが書かれている。
「福祉に数字は関係ないと言いますが、経営には目標が必要です。大切にしたいことばは、福祉法人として本来あるべき姿を伝えたいという思いで書いています」
報告書は、伊地知さんから職員へのラブレターのようなもの。6月度の大切にしたいことばは「報連相」。伊地知さんが60年にわたり企業人として習得したその極意と上下関係のないコミュニケーションの大切さが書かれている。

3密を避けて機能訓練室で対策会議。

三養福祉会の理念は「人権尊重」

「伊地知さんは即断即決の人。だから仕事がしやすい」と、話すのは副施設長の盛野泰位さん。
新型コロナへの対応も早かった。ソーシャルディスタンスを保つために、対策会議は広い機能訓練室で実施。備蓄していた介護用おむつの段ボール箱を机にして対応を話し合った。
3月初めに隣の伊丹市の福祉施設で集団感染が発生。同じ頃、そこに行っていた人がサンフォート武庫之荘のデイサービスを利用中に体調が悪くなり発熱が見られたときは、PCR検査の結果を待たずに3日間デイサービスを休業した。幸い陰性だったが、これを機に職員が一致団結してコロナ禍に向かう気持ちが生まれたという。
前例のない出来事で判断を迫られたとき、伊地知さんは何よりも「人を大事に」して判断する。 デイサービスの利用者が他の施設で新型コロナに感染して入院し、無事退院したあと、サンフォート武庫之荘を利用したいという申し出に対しても、「受け入れは福祉事業者の使命」と考え、診療所のドクターと相談してどう受け入ればよいかを検討している。

「三養福祉会の理念は、人権尊重が基本。高齢者や障がい者すべてのご利用者が共に生きる社会(ノーマライゼーション)の実現を目指すことです。その理念と合わない人は福祉の仕事はできない」

伊地知さんは何ごとにも前向き。5月から看取り介護を始めた。毎夏利用者が楽しみにしている納涼祭も一概に中止とせず、規模を縮小して開催する予定だ。
「ご家族は呼ばず食事を中心に開催するつもりです。うちの食事は料理旅館の経験を活かしたシェフが指導しているので美味しいんですよ」。伊地知さんはチャーミングに笑った。