同志社大学名誉教授、上野谷加代子さんが語る「助けられ上手」と「助け上手」

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新たな日々は、コロナ禍に加え、豪雨・洪水などの天災の中でも動き始めた。今春、同志社大学教授を退職して、名誉教授になった上野谷加代子さん。4月1日には、大阪市ボランティア・市民活動センター所長の仕事も3年目に入った。日本の福祉をリードしてきた「リボンの騎士」(メモ参照)。「非常時になればなるほど、繋がりが輝く。活動を実践する人材を常に育成する取り組みが大切です」と、全国を守備範囲に、「地域福祉」の地歩を固めている。(平田篤州)

お助け隊にエール

7月3日の昼下がり、愛知県豊田市の豊田市福祉センター。上野谷さんは、市内で活躍する「お助け隊」の第1回情報交換会のゲストスピーカーとして講演していた。講演のテーマは、「今だからこそ、地域で支えあう必要性」。
「上野谷先生の大学の最終講義(2月29日)にうかがう予定だったのですが、新型コロナウイルスの感染拡大で断念しました。きょうは、長年お世話になってきた先生への感謝の会でもあります」
主催した豊田市社会福祉協議会常務理事で事務局長の中田繁美さんは、こう話した。上野谷さんは、豊田市地域福祉活動計画策定委員会の委員長や第8次豊田市総合計画審議会員を務めるなど、20年以上にわたって豊田市のみなさんとかかわってきた。
この日は、太田市長らとも懇談、名鉄トヨタホテルで行われた豊田市社協互助会主催の「職員交流会」にも招かれた。
「助け上手、助けられ上手に生きる…についても、いつもわかりやすくお話しいただいています。とにかく気さくなお人柄、私もやまちゃん、やまちゃんと言っていただいて…」
こう話したのは、山村さん。上野谷さんの「人材育成」の想いを形にする「とよた市民福祉大学」の運営委員会で、委員長を務めている。

「加代子の部屋」のステージでベトナムのアオザイ姿を披露した上野谷さん

新任職員研修

豊田市での講演の2週間前、6月18日の午後2時過ぎ。大阪市天王寺区東高津町の大阪市ボランティア・市民活動センターを訪れると、上野谷さんは、マスク姿で執務にあたっていた。
前回の取材は3月24日。それから約3か月。上野谷さんは、大阪府に緊急事態宣言(4月7日〜5月20日)が出されていた間も、在宅勤務をしながら週に1度は出勤していた。センターの一番奥、といっても入口が最も見通せる位置に所長席が移動していた。
今春、市社協に入職した新任職員研修が行われ、上野谷さんは「社会福祉協議会の職員に求められていること」というテーマで約20人の新人に講演した。
「いや、失敗したと思っています」
素晴らしい講演だったに違いないのに、こう切り出した。上野谷さんは、「社協とは何か」「制度・政策の流れ」「技術、知識、価値(倫理)」などの話をした。
例えば、社協については「行政と地域住民の間に立って、板挟みになる仕事、だからこそ頑張らなあかん」などと伝えた。
なぜ、失敗と思うのか。
「これから、という燃える想いで入職してきたのに、コロナ禍に伴う緊急貸し付けの仕事などにあたる。(理念も何もないやん…)。そう思う新任職員もいるはず。何をもって緊急なのか、などについて、もっと話すべきやった。毎日食べることができる、寝る場所をなんとかする、そこにつながっている仕事だ、社会全体の仕組みの中で、本来、政府がやるべきものかもしれないが、今は社協が担っている。危機管理対応なのだ、と…」
若い人を育てる、大切にしたい、という想いが、心の底から染み出た言葉だ。

 

技術、知識、価値(倫理)

研修で伝えた「技術、知識、価値(倫理)」について、改めて聞いた。
「これを持たないと、いくら社会福祉士だろうと精神保健福祉士だろうと介護福祉士だろうと駄目です」
語気が強まる。
「ニーズを持っている人が、一番強い。何か困りごとを抱えて、それに気づいて、目覚めて、発言出来て、なんとかもがきながらでも解決しようと思う人のエネルギーが一番強い」
「本人が気づいていない間は、私たちも頼られる…。でも、本人が気づいた時に、私たちが気づいていなかったら、なんだとなる。専門職の存在感があるのは、ある意味、本人が気づかないうち…」
「それが今は逆転しそうになっている。コロナがそうだけれども、Zoom(オンライン会議システム)で世界中の情報や識者、専門家、政治家の考え方や意見を聞けて、賢い人々はそこで必要な社会資源に繋がっていく…『つながりをつくる社協』といっておきながら、後手にまわる。そういう意味で、私たちの仕事は力がいる。技術、知識、価値(倫理)をしっかりとらえて実践する、本当の力が要るんです」

Stay in touch (連絡を保つ)の工夫

人と会うことが基本のソーシャルワーカーにとって、「ソーシャルディスタンス」に象徴される「人と近づくな」という、コロナ禍の国民的ルールは、退場勧告に等しい。
「今まで1回も繋がっていない人との繋がり方と、1回でも繋がっている人を繋ぎとめることは違います。いろいろなケースを、分けて考えるべきです。残念なのは、1回繋がっている人についての対応が遅れていることです」
こう話して、上野谷さんは、豊中市社協(大阪府)の事例を示した。アウトリーチによって「ゴミ屋敷」の実態などを世に問い、NHKのテレビドラマ「サイレントプア」のモデルにもなった、勝部麗子さんらの取り組みである。
「1度繋がった人たちに手紙を出す。往復はがきを入れて。そうしたら孤立している人たちも『私のことを忘れていない証拠だ』と思ってくれる。Stay in touch(連絡を絶やさない、連絡を保つ)の工夫です。勝部さんたちは、これをやっている…」
「Stay in touch」は、本来、メールや電話、チャットなどで、ある一定の間隔で連絡を取り合う場合によく使う英語表現だ。上野谷さんは「手紙の復活など、アイデアレベルでもどんどん出していくことが大切。お金でないもので繋ぐ形をつくっていかなければなりません」と話した。

今だからこそ、つながりミーティング

6月22日夜と24日の午後。上野谷さんはそれぞれ1時間、自宅で、パソコンの前に座った。オンライン会議システム「Zoom」を使ったミーティング。社会福祉協議会や施設の職員9人が各々参加していた。
「支援者を支援することも、今、求められています。それも業種を越えてやることがいいですね。参加者は、以前、あるセミナーでファシリテーターをしていただいたみなさんです。それぞれ優秀な方ですが、やはりコロナ禍の中で、大変な苦労、心労をされています。私の施設は、ではなくて、主語は私。初めは、私がつらかったことから話していただく。私がどうやったかを言いながら、自己変革をする。落ち込んだり頑張ったりしたことをつぶやいてもらう。その練習をZoomミーティングでしました」
こうしたサポートこそ、社会福祉協議会のような民間と行政を繋ぐ「中間支援」の組織の仕事ではないか、と上野谷さんは話す。
「これからは、チームで研修をする、理念を流れの中で統一する。施設の職員も含めて、今、傾聴がぜんぶだめになっているから、専門職の士気は低下する一方です。これではいけません。コロナをちゃんと恐れながら、対策をしっかりとって、研修などを行っていく。繋がることが私たちの使命なのですから」

メモ リボンの騎士   手塚治虫による少女漫画、アニメ。お姫様が男装の麗人になって戦う。手塚が幼いころから親しんだ、宝塚歌劇団の影響を受けた作品。