できた!国産原料100%。自閉症の利用者さんと共につくるクラフトビール

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京都の多機能型障害者支援事業所HEROES(ヒーローズ)は自閉症の障害者らと共にクラフトビールを作っている。群馬、宮城の事業所と農福連携した国産原料100%ビールは、第1回ノウフク・アワードで審査員特別賞を受賞した。福祉のイメージを覆す取り組みの原点を理事長の松尾浩久さんにうかがった。(和田依子)

——どのような事業所ですか。

HEROESは重度の自閉症、行動障害の利用者さんを積極的に支援している事業所です。彼らの支援には障害自体というより、周囲の環境、とりわけ支援者のかかわり方の問題が大きい。そこを改善したいと思って生活介護の事業所を立ち上げました。自閉症の方たちは学力的には年齢相応であっても対人関係においては5歳児ぐらいだったりするので、甘えているようにしか見えず、社会から理解されにくいところがあります。支援には特別なスキルも必要です。そこで、他の施設や京都市内で開催される研修会で支援員向けのレクチャーも数多くしてきました。
ここが利用者さんがゆっくりできる居場所となるのは大事なことですが、20代、30代の彼らが、この先もずっとそのままというのはもったいないことです。彼らの能力を生かせる仕事を提供しようと、就労継続支援B型を併設しました。現在、生活介護で16人、B型で3人の利用者さんがいらっしゃいます。

——ビールづくりのきっかけは。

障害のある人が社会に存在を認められ理解されるには、地域とつながり続けることが大切です。そのためには、日常的によく消費されるものを利用者さんが提供できればいいと考えました。しかも、支援する僕たちもワクワクできるような、福祉の「清く正しい」イメージとはかけ離れた製品が面白いと思ってビールを選びました。2017年に事業所内にビール醸造所「西陣麦酒(にしじんばくしゅ)」を立ち上げました。2019年は大谷大学(京都市)で地域福祉活動をする学生らとコラボし、市内山間部の伝統的な茶葉「まんま茶」を使ったビールを商品化し、地域活性化に協力しました。

ビールの原料を醸造タンクに仕込む

——農福連携(ノウフク)ビールとはどのようなものですか。

国内のクラフトビールのほとんどが原料を輸入に頼る中、どうせやるなら国産100%で、しかも作り手も100%福祉事業所で働く人たちのビールを作ったら面白いんじゃないかと考えました。そこで昨年、社会福祉法人ゆずりは会のB型事業所「菜の花」(群馬県前橋市)とコラボして原材料の大麦を生産してもらいました。ホップは中間的就労を行う一般社団法人イシノマキ・ファーム(宮城県石巻市)にお願いしました。「ふぞろいの麦たち」という商品名で販売しましたが、昨年は大麦の生産量が少なかったため1500本程度しか作れませんでした。今年は大麦の耕作地を2反から10反に増やし、京都府の他の事業所ともタイアップし、増産を予定しています。同時に、麦から醸造に必要な麦芽を作る「精麦」作業も福祉の力でできないかと考えています。作業をお願いできる福祉事業所を、全国で募集しています。

西陣麦酒の定番ビール。手前が国産原料100パーセントの「ふぞろいの麦たち」

松尾浩久(まつお・ひろひさ)特定非営利活動法人HEROES理事長。公認心理師、社会福祉士、介護福祉士、自閉症支援スーパーバイザー、強度行動障害支援者養成研修インストラクターなど。社会福祉法人西陣会(京都市)で10年以上、障害者支援に携わった後に独立。2013年、特定非営利活動法人HEROESを立ち上げた。法人名には「一人ひとりが、その人の人生の主人公(ヒーロー)。障害があってもその人らしい人生が送れるように寄り添い共に歩む」という思いが込められている。

西陣麦酒のビールの購入はこちらから→西陣麦酒ホームページ https://nishijin-beer.com/