2020年11月1日、東京・杉並区に、社会福祉法人「三養福祉会」(大阪府門真市)の特別養護老人ホーム「プライムガーデンズ高円寺」がオープンする。三養福祉会は、関西一円で特別養護老人ホームやケアハウスなどを運営しており、東京への進出は初めて。利用者を見守る最新の設備を導入し、働きやすい職場づくりで介護の質を上げる新しい福祉のあり方を取材した。 (文/赤坂志乃)
職員専用の本格的なスポーツジムが注目を集める
環七通りに面して建つ、7階建ての特別養護老人ホーム「プライムガーデンズ高円寺」。まず目を引くのが、エントランスにあるカフェ「J-COFFEE」だ。「カフェは地域に開かれた交流スペースです。高齢者施設にあまり来ることがない若い人にも気軽に来てほしい」と、施設長の叶賢治さん。利用者はもちろん職員も自由に利用できる。
プライムガーデンズ高円寺は、これまでの特別養護老人ホームのイメージを変える先進的な施設づくりが注目を集めている。
その一つが、職員の福利厚生スペースである。見晴らしの良い最上階に職員専用のリラクゼーションをかねた本格的なスポーツジムがあり、水圧の刺激によって心身を癒すウオーターベッド型マッサージ器やサイクリングマシンなどのトレーニング機器を設置。地下1階の休憩室には間仕切りのある個室ブースやマッサージチェアも設けられている。
「職員は休憩時間や仕事終わりにストレス解消をしながら心身のコンディションを整えることができます。職員が気持よく働ける職場づくりが、結果的に利用者さんへの質の高いケアとご家族への対応につながると考えています」
東京都に初めて進出するに当たり、都のヒアリングで「何のための介護施設か。もっと入居者に関わる部分を増やしてほしい」と言われたが、逆に「職員がゆとりを持って働けないと良い介護は出来ない。職員優先で良い職員が来ればおのずと介護の質が上がる」と説明し、一つのモデル事業としてやるように認められたという。
一般企業が社員の福利厚生に力を入れるように、福祉の世界も職員向けの環境をもっと整えていくべきと、叶さんは考えている。来年3月には施設内に企業主導型保育所を開設し、職員が子どもを預けて安心して働ける環境を整える予定だ。
新型コロナウイルスの影響で面接をオンライン方式に切り替えるなど採用には苦労したそうだが、スターティングメンバーはほぼ揃い、11月のオープンに向けて、職員研修が始まっている。初心者には座学と実技で基礎から時間をかけて研修し、経験者には三養福祉会の理念に基づいて経験を活かせるようプログラムを組んでいる。
ユニット型として全国初、全室に見守りセンサー導入
もう一つの画期的な取り組みは、ユニット型として全国で初めてパラマウントベッドの見守りセンサー「眠りSCAN eye」を全室に導入したことである。シート状のセンサーをベッドの下に敷くだけで利用者の呼吸数や心拍数、睡眠状態などを察知し、離床動作などがあれば対応カメラで映像を記録。職員は離れていてもパソコンを通してリアルタイムで利用者の状況を確認できる。
「何かあるとカメラが作動してお部屋の様子がわかるので、利用者さんに安心して過ごしていただけます。職員は見えないと心配で何度もお部屋をのぞくのでお互いに気を使います。特に夜間はお年寄り特有の行動があって、職員は精神的に負担が大きいのでその軽減にもつながるんです」
近年、福祉施設における虐待が問題になっているが、プライバシーを守りながら利用者の様子を可視化することで家族にも安心され、施設としては見えないがゆえに訴訟問題となる可能性を避けるメリットもあるという。新型コロナの感染防止の観点からも評価されている。
地域の一つとして使ってほしい
高円寺は、東京都23区の中でも落ち着いた住みやすい街と人気のエリア。プライムガーデンズ高円寺には、1階のJ-COFFEEのほか6階に地域交流ホール、7階に多目的スペースなどがあり、地域のサークル活動や発表会、会議などにも利用できる。
「ここを地域の一つとして使ってもらい、利用者さんにも地域住民として参加していただく。施設の地域交流イベントも開く予定です。ボランティアさんにも来ていただいて、お茶を飲みながら入居者さんのお話し相手になっていただいたり、行事に参加していただくだけでもいいので気軽に入ってこれる場所にしたい」
叶さんは前職で奈良県橿原市の特別養護老人ホーム「橿原の郷」の立ち上げに関わり、新施設の立ち上げは2度目。今回のプライムガーデンズ高円寺は、利用者も職員も健やかに過ごせることを考えた進化系の高齢者施設だが、橿原の郷と同じように地域になじみ愛される施設として根づかせたいと考えている。