【DV被害の砦へ】大阪府社会福祉協議会・母子施設部会がミニコミ紙「魁PRESS」を創刊

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大阪府社会福祉協議会・母子施設部会(荒井惠一・部会長)が、ミニコミ紙「魁PRESS」を創刊した。コロナ禍でDV被害や虐待が深刻化するなか、「最後のとりで」としての母子生活支援施設への理解を深めてもらい、多くの母や子をサポートしていくのが狙い。昨年末に創刊号を出し、大阪の母子生活支援施設に措置を取り持った全国の福祉事務所に無料配布する。

取材・編集を担うのは、部会内で発足した「魁プロジェクト」のメンバーだ。創刊号はA4版4ページ。コロナ禍での刊行に思いを寄せたコラム「発刊について」をはじめ、入居者の生活を紹介する「母子生活支援施設の自立支援」、自立を果たした母子に取材した「退居者からの声」などの記事で構成。施設の実話を盛り込んだ4コマ漫画「ほっこりエピソード」もあり、年3回のペースで発行する。

魁プロジェクトは、母子生活支援施設の機能やふだんの支援の姿を知ってもらおうと2017年12月、部会内の7施設の職員11人で発足。入所相談窓口となる府内68カ所の福祉事務所をメンバーが訪問して情報交換を図るとともに、現場の課題の掘り起こしを進めてきた。昨夏には、府内の福祉事務所職員を招き、共同研修会を開催。ネットワークづくりに尽力してきた。

「魁プロジェクト」のメンバー(前列左から3人目が荒井部会長)

施設利用率の低さが課題

母子生活支援施設は全国に約220カ所あり、約1万人の母子が暮らす。大阪府内の母子世帯は約6万世帯。施設で受け入れ可能なのは全体の0.5%の300世帯に過ぎないのに、施設利用率は80%に止まっている。暫定定員(定員割れ)の施設は全国で50%を超え、施設利用率の低さが課題となっている。

また、コロナ禍に伴う自粛生活が長期化し、DVや虐待、貧困の連鎖も深刻化している。この現状を踏まえ、府社協母子施設部会は昨年6月、「現状の市町村による相談窓口での措置だけでなく、児童相談所やDV相談センターなど府内の施設にも相談窓口を広げ、連携して柔軟に措置がなされること」などを求める緊急要望書を吉村洋文知事に出した。

荒井部会長は「暫定定員の問題を放置したら、子どもと女性は社会の底辺に埋没してしまう。母子生活支援施設は母と子を守る希望のとりでであることを強く訴えたい」と語る。

魁PRESSの創刊もこの活動の一環だ。メンバーは昨年7月から入居者への取材や記事執筆、レイアウトなどを分担して作業を進めてきた。

副委員長の母子生活支援施設「ボ・ドーム大念仏」(大阪市平野区)の副主任、村尾理恵子さんは「私たちの声を福祉事務所に伝え、協働しながら利用者への必要な支援をしていきたい」と話している。

母子のとりでを守りたい

「施設を巣立った子どもたちが書いてくれたんですよ」
魁プロジェクトの委員長を務める母子生活支援施設「ルフレ八尾」(大阪・八尾市)の少年指導員、桒田将格さんは愛らしい便せんに綴られた手紙を手に顔をほころばせた。4年前、6年生を送る会で卒業生4人から贈られたものだ。

母子生活支援施設「ルフレ八尾」の少年指導員、桒田将格さん

「一番好きな先生です」「先生のおかげでいっぱい成長できました」。文面には感謝の言葉が並ぶ。「こんなことは初めて。私の宝物なんです」。そう力を込める。

実は福祉職志望ではなかった。高校を出てから9年間、土産品などの缶詰を製作する会社に勤務。仕事中のけがで休職中、姉が勤めていた保育園を見学したことから子どもと関わる仕事につきたいと退職し短大の幼児教育学科に進んだ。幼稚園教諭と保育士の資格を取り、卒業後は公立幼稚園で1年ごとに契約を更新する臨時教員として働いた。

施設を運営する社会福祉法人「八尾隣保館」への入職は35歳のとき。腰を据えて子どもたちを支援したいと志願した。法人内の保育園志望だったが、配属は当時の八尾母子ホーム。小林幸子主任(現・施設長)から全く実態を知らなかったホームのことを詳しく教えてもらい、地域のために汗を流す法人の福祉理念にも共感し、仕事にためらいはなかった。

子どもたちとブロック遊びをする桒田さん(右上)=大阪府八尾市のルフレ八尾

先入観持たず子どもと対話

入職して8年。母子で暮らす家庭と向き合ってきた。母親がDV被害を受けたケースも少なくない。常に心がけるのは「先入観を持たないこと」。入所時の親子の基本情報を踏まえ、実際に子どもと重ねた対話をサポートの中心に据える。「表面上は笑顔でも心の中が見えない子も多い。一人一人にとって何が一番必要なのかを考えていきたい」と語る。

5年前、創設時から続いてきた八尾母子ホームは現在の場所(同市高美町)に移り、「ルフレ八尾」として新たな一歩を踏み出した。これを機に貧困の連鎖を断ち切るため、地域の生活困窮家庭の子ども向けに始めた学習支援の場「びはーと」や八尾市母子寡婦福祉会が代表で運営する「ひとり親家庭支援ネットワーク」の活動にも参加し、仕事の幅を広げている。

伝わっていない施設の実態

2017年12月、大阪府社会福祉協議会・母子施設部会に魁プロジェクトが発足すると部会長の荒井惠一理事長の推薦でチームのメンバーとなり、積極的な活動を続けてきた。

今回のミニコミ紙「魁」創刊のきっかけは18年夏、プロジェクトの活動の一環で施設の入所窓口となる府内68カ所の社会福祉事務所を訪問し職員と意見を交わしたこと。「母子生活支援施設は一時避難のためのシェルター」「男子中学生は入所できない」といった誤った情報が流布されており、福祉事務所にさえ施設の実態が正確に伝わっていないことを実感した。

だが、今年度はコロナ禍の影響で対外的な活動を自粛せざるを得なくなり、「母子生活支援施設の存在を忘れてほしくない」との思いから「Don’t forget(忘れないで)」を合言葉に魁PRESSの発刊を企画。昨年夏から取材・編集作業をメンバーと分担して進めてきた。

また、プロジェクトの活動が全国に広がればと、全国母子生活支援施設研究大会などで取り組みの成果を発表。東京都社会福祉協議会母子福祉部会や福岡県母子生活支援施設協議会の研修会にも招かれ、大阪の取り組みを伝えている。

桒田さんは「母子生活支援施設と福祉事務所の職員が顔の見える関係を築き、協力することで母子の未来を拓く一助になれば。母子のとりでを守るためにも努力は惜しみません」と意欲を燃やす。